『それから、何時だかアムブロアジヌお婆あさんが、考へなしにランプをストオヴの上に置いたんですよ』とジユウルも附け加へました。 『そりやすぐにとけて、指の幅位の錫が見る間に見えなくなつてしまつたんですよ。』 『錫や鉛はごく熔やすい。』ポオル叔父さんは説明しました。『それをとかすのには、うちの炉の熱で沢山だ。亜鉛を熔かすのもやはり大して六かしいことではない。だが、銀、それから銅、それから金最後に鉄は、普通の家では知らない強い火が要るのだ。とりわけ鉄は、吾々には非常なねうちのある強い抵抗力を持つてゐる。 『シヨベル、火箸、炉格、ストオヴは鉄だ。そんないろんなものは、いつも火と接触してゐる。が、それでも熔ける事はない。柔かくさへもならない。鍛冶屋が鉄床の上でハンマアで叩いてたやすく形を造る事が出来るやうに、鉄を柔かにするには、熔鉄炉のありつたけの熱が要るのだ。が、鍛冶屋がたゞ石炭を加へて煽いだ処でそれは無駄だ。決してそれを熔かすことは出来ない。しかし鉄だつて熔けるのだ。たゞそれには人間の熟錬が産み出す一番強い熱を使はなければならない。』